― 高校3年生の冬がやってきた。省吾は受験を前に、日々勉強を重ねるが精神的なプレッシャーは高まり続けていた。 ―
勉強をすればするほど、分かることが増え、そして分からないことも増えていく。
日を重ねる毎に、目標に向かってスピードを上げているつもりだが、
何処というでも無く、俺を押さえつけるような、得体の知れない重力は強まるばかりだ。
かたい岩でも、同じところに水滴が当たり続ければ、
いずれは削れていき、その形を変える。
人の精神も同じだろう。
同じことを繰り返し、同じプレッシャーを受け続ければダメージは確実に蓄積し、
手を打たなければ折れてしまう。
心も疲労骨折することがあるわけだ。
こんな時は、友達と話したり、のんびり散歩したりして気晴らしが出来れば良いのだが
あいにく、今の俺にはそんな時間が無い。
「ろくなニュースが無いな・・・」
朝、出かける前に流れるテレビを観ても、いつも気が重くなる話ばかりだ。
たまに観るときに限って、悪い占いなんかも流れていたりする。
俺は釈然としない気持ちで、まだ暗い中、今日も朝の電車に飛び乗り、学校を目指した。
いつもの席に座り、二駅くらい過ぎたあたりだろうか。
海の向こうが白み始めた。
電車ではいつも勉強ばかりだが、今日ばかりは窓の外を見ていた。
やがて、一条の光が波間に差したかと思うと、車内を黄金色に染めていった。
未だかつて、これほど美しい日の光を見たことはない。
縦横無尽に反射した光が車内を均一に照らし、
俺は光の中にただ一人浮いているような錯覚を覚えた。
突然の光景に、何というか、純粋に心が洗われるような気がした。
そして無性に、「有り難い」という気持ちがわき上がった。
「俺は恵まれているんだな・・・」
今日もこうして、電車は走っているし、
ご飯も食べて、日の出を美しいと感じることもできる。
今日も世界のどこかで、何かが、そして誰かが
俺の当たり前の一日が過ごせるよう、意図するとしないとに関わらず動いている。
さっき観たニュースの世界にはあり得ないようなことが、ここでは毎日当たり前のように過ぎていく。
何という奇跡だろう。
もっと言えば、俺はこうやって自分の目的のために、専念することができる。
「勉強しなければいけない」のではなく、「ずっと勉強だけやっていても良い」環境が俺の手中にあるんだ!
俺には目的を自分で設定し、願えば叶う可能性が、与えられている。
「そうか、ずっとそうだったのか・・・。」
つづく・・・
photo credit: matsugoro via photopin cc
あとがき
「有り難い」というのは、文字通り読めば「有ることが難しい」ということです。
なかなか無いもの=貴重なもの、とも言えます。
日々当たり前のように思い、気づきもしないことが実は有り難いことだと分かれば、気持ちは一瞬で変えられます。
この中で一つでも当てはまることがあれば、あなたは幸せな人です。
・今日もご飯が食べられたし、水もある。
・今日も暖かい布団で寝ることが出来た。
・今日も平らなところで、横になって寝ることが出来た。
・今日もトイレに紙があった。
・今日も家族と一緒に無事過ごすことができた。
・望めば家族、友達に電話したりメールしたりできる。
・望めば本屋に行くことができる。通販もできる。
・望めば音楽を聴くことができるし、テレビを観ることもできる。
・自分の目標があり、時間もどうにかある。
・努力次第で目標が叶う可能性がある。
・今、まさにパソコンやスマホでネットを活用できている。
あなたが持つ、すばらしい恵みを思う存分享受し、
最大限に活かしてあなたの目標に全力投球してください。
あなたを取り巻く環境も、あなたの持っている時間も、可能性も、すべてあなたの財産であり権利です。
無駄にするなんて、もったいないですよね?
いつもお読み頂きありがとうございます!
※この物語は、実体験をもとにしたフィクションです。
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