― 省吾は久々に、英語以外の科目に着手することにした。意気込んで、翌日の授業の予習を始めたまではいいのだが・・・ ―
「英検との戦いも、ようやく終わった・・・」
英検1級の合格通知が届いた日、俺はしばらく机に向かってその通知を眺めていた。
達成感という気持ちが一番かもしれない。
しかし、今まで追い求めていた目標が、もう目標ではなくなってしまった空虚感や、次の目標に向けての不安な気持ちもかなりある。
「そろそろ英語以外の勉強もしないと・・・。」
その他の教科は何かと追いつかないといけないところが多い。
「よし、明日の授業の予習をしてみるか!」
今まで学校の授業の予習など、やったことは無いが、やってダメなわけは無いだろうと考えた。
「まずは、化学からだ。」
俺は今までの遅れを取り戻そうと、明日の授業でやる部分を完全に予習していくことにした。
しかし、予習を始めたはいいものの、どうにもはじめて見ることばかりで中々進まない。
つらいと思う気持ちを押さえつけ、どうにか化学の予習をやり終えるころには、だいぶテンションが下がっていた。
「数学はさらっと確認しておけばいいかな・・・」
例題も、解けないものはどんどん飛ばした。
明日の授業の範囲の雰囲気だけはつかんだが、もうそれ以上やる気が起きないものはどうしようもない。
「予習とか、する意味あるのかな・・・」
もう今日は寝ることにした。
だが翌日、面白いことが起きた。
何とか気合で、細かいところまで予習していったはずの化学の授業は、どうにも頭に入ってこない。
それに対して、軽く流しただけの数学は、意外にもすっと理解できた。
適当に流し読みしたはずの数学の方が、予習の効果を感じることができたのだ。
「これはどういう訳だろう?」
photo credit: wolfgraebel via photopin cc
つづく・・・
あとがき
予習の極意は慣れることです。
これは学校の勉強だけに限った話ではありません。
新しい知識や技術を身につけたいときは、最初のステップに注意してください。
人間はなじみのない世界には警戒心を抱く生き物なので、最初の出会い方がまずいと、なかなかその印象が解けません。
たとえば、ひどい数学の先生に教わったせいで、一生数学が苦手になったという人もいるのではないでしょうか?
新しい情報に触れるときのコツは、「少しずつ」です。
細かいことにこだわらず、重要ポイントや、全体の流れなどをさっと確認する程度のスタートがいいと思います。
一回目で、マスターしよう、覚えよう、と力まずに、脳の拒絶反応を起こさないことを目指した方が、長い目で見ればうまくいきます。
新しい世界に触れるときには、まず、入り口にある一番低いハードルで転ばないことだけを目指してみてください。
いつもお読み頂きありがとうございます!
※この物語は、実体験をもとにしたフィクションです。
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