― 高校1年の初めの頃、省吾は徐々に大学受験のことを考えはじめていた。何かしら、少しでも早く始めるほうが良いと考え、早速A4のノートを買ってきた。だが、そこには思わぬ落とし穴があった。 ―
「まずは世界史からやってみよう。」
教科書はもちろん、詳述資料集も購入し、単元毎にまとめて行くことにした。ある単元についてはそのノートだけ見れば全て書いてある・・・。そんなお宝ノートを作ろうと考えてわくわくしていた。
ためしに、人間がサルだったころの歴史をまとめてみた。
見た目もキレイにまとまっていてとても満足だった。
「よし、これはいい!」
俺は引き続き、しばらくは世界史のノート作りを進めていた。修学旅行の思い出アルバムでも作っているような楽しさがあった。
しかし・・・
葉桜が綺麗に茂ってきた頃、うっすらと、ある疑問が生じた。
「このままだと時間が足りないのでは?」
ずっと世界史のノート作りだけしているのに、授業ペースを超えることも出来ていない。ほかにも日本史、生物、倫理、古典・・・とノート作りが必要な科目を考えると嫌な予感がした。
念のため、今までのペースから今後必要になる時間を概算してみた。
この方法では受験に間に合わない・・・
何か方法を考えるしかない。
だが、せっかくここまできれいに作ったノートがもったいないという気持ちは強かった。
何とかこのノートを効率よく書いていく方法はないものか・・・。
俺は「お宝ノート」にこだわってみたが、効率化もたいして進まず、結局その他の科目まで手が回らないだけだった。2学期の中間テストでは得意の英語以外、目に見えて成績が悪くなっていた。
選択の余地がなくなって、ようやく俺は目が覚めた。
俺が求めているのは、試験に受かることであって、きれいな参考書を作ることではないんだ。
だが一箇所に情報をまとめる、という方針は間違っていないはずだ。その条件を満たしつつも、時間的に間に合う方法はないものか?
つづく・・・
あとがき
事業に投入したお金のうち、その事業ではどうにも回収の見込みがない費用のことを、経済用語で「サンク・コスト」といいます。英語で、サンク=沈んでしまった、コスト=費用、のことです。
サンク・コストの例は世の中にたくさんあります。
今回は3つ例を考えてみます。
・ノートをきれいに作ったが、そのノート戦略では受験に間に合わないとわかる。かなりの労力を注ぎ込んだと感じても、もうその時間は戻ってこないので、ノートを完成させるより、その時間を別の勉強にあてたほうがいい。(省吾の例)
・試験中、問題を途中まで解いたけど、どうしても解けない。それまでに使った時間がもったいなくてもこだわってはいけない。
・何度もアプローチしている営業先があるが、なかなか契約が取れない。今まで同僚を巻き込んでプレゼンしたり、接待したりした手前、どうにか元を取りたい。こんな状況でも冷静に見極めて、もっとほかに可能性の高い見込み客にリソースを投入したほうがいい。
簡単に言ってしまえば、時間とお金を無駄にしないために、こだわりや思い入れには注意すべし、ということです。
変なこだわりは、時に状況を悪化させてしまうことがあります。
決断を引き延ばしにして、損が取り返せなくなるレベルになる前に、状況を冷静に見極めることが大切です。
大事なのは沈んだ船を引き上げることではありません。まだ浮いている船まで沈ませないことです。
いつもお読み頂きありがとうございます!
※この物語は、実体験をもとにしたフィクションです。
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