変な執着心や、こだわりは捨てて生産性を上げる考え方 (第7話 美しいノート)

― 高校1年の初めの頃、省吾は徐々に大学受験のことを考えはじめていた。何かしら、少しでも早く始めるほうが良いと考え、早速A4のノートを買ってきた。だが、そこには思わぬ落とし穴があった。 ―

 

「まずは世界史からやってみよう。」

教科書はもちろん、詳述資料集も購入し、単元毎にまとめて行くことにした。ある単元についてはそのノートだけ見れば全て書いてある・・・。そんなお宝ノートを作ろうと考えてわくわくしていた。

 

ためしに、人間がサルだったころの歴史をまとめてみた。

見た目もキレイにまとまっていてとても満足だった。

「よし、これはいい!」

俺は引き続き、しばらくは世界史のノート作りを進めていた。修学旅行の思い出アルバムでも作っているような楽しさがあった。

しかし・・・

葉桜が綺麗に茂ってきた頃、うっすらと、ある疑問が生じた。

 

「このままだと時間が足りないのでは?」

 

ずっと世界史のノート作りだけしているのに、授業ペースを超えることも出来ていない。ほかにも日本史、生物、倫理、古典・・・とノート作りが必要な科目を考えると嫌な予感がした。

念のため、今までのペースから今後必要になる時間を概算してみた。

 

この方法では受験に間に合わない・・・

 

何か方法を考えるしかない。

だが、せっかくここまできれいに作ったノートがもったいないという気持ちは強かった。

何とかこのノートを効率よく書いていく方法はないものか・・・。

俺は「お宝ノート」にこだわってみたが、効率化もたいして進まず、結局その他の科目まで手が回らないだけだった。2学期の中間テストでは得意の英語以外、目に見えて成績が悪くなっていた。

 

選択の余地がなくなって、ようやく俺は目が覚めた。

俺が求めているのは、試験に受かることであって、きれいな参考書を作ることではないんだ。

だが一箇所に情報をまとめる、という方針は間違っていないはずだ。その条件を満たしつつも、時間的に間に合う方法はないものか?

つづく・・・

 

あとがき

事業に投入したお金のうち、その事業ではどうにも回収の見込みがない費用のことを、経済用語で「サンク・コスト」といいます。英語で、サンク=沈んでしまった、コスト=費用、のことです。

 

サンク・コストの例は世の中にたくさんあります。

今回は3つ例を考えてみます。

・ノートをきれいに作ったが、そのノート戦略では受験に間に合わないとわかる。かなりの労力を注ぎ込んだと感じても、もうその時間は戻ってこないので、ノートを完成させるより、その時間を別の勉強にあてたほうがいい。(省吾の例)

 

・試験中、問題を途中まで解いたけど、どうしても解けない。それまでに使った時間がもったいなくてもこだわってはいけない。

 

・何度もアプローチしている営業先があるが、なかなか契約が取れない。今まで同僚を巻き込んでプレゼンしたり、接待したりした手前、どうにか元を取りたい。こんな状況でも冷静に見極めて、もっとほかに可能性の高い見込み客にリソースを投入したほうがいい。

簡単に言ってしまえば、時間とお金を無駄にしないために、こだわりや思い入れには注意すべし、ということです。

変なこだわりは、時に状況を悪化させてしまうことがあります。
決断を引き延ばしにして、損が取り返せなくなるレベルになる前に、状況を冷静に見極めることが大切です。

大事なのは沈んだ船を引き上げることではありません。まだ浮いている船まで沈ませないことです。

 

いつもお読み頂きありがとうございます!
※この物語は、実体験をもとにしたフィクションです。

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