― 省吾は数学がずっと苦手だった。しかし、志望校は数学が必須科目になっている。省吾は、暗記で数学が解けるようになるという魔法のような参考書に出会うのだが・・・ ―
俺も高校2年生になり、1学期が始まった。
去年までは英語を完成させるんだと息巻いて、ある意味それだけやっていればよかったが、もうそろそろ他の科目を全体的に進めて行かなければ間に合わない。
一番の課題は数学だ。
文系でもそれなりに数学の勉強をしておかなければ合格は難しい。
「うちの家系は数学が苦手なんだよ。こればかりは仕方が無い。」
小さい頃から、口癖のように親が言うのを聞かされてきた。
そのせいか、どうしても、数学の授業になると自分は苦手なんだと考えて、最初から解けないような気がしていた。
よく考えてみれば、家系だけで数学力がすべて決まるわけ無いと思うが、あまりに幼少期から言われていたので、深層心理に定着してしまっていたのかもしれない。
そんなところへ来て、ある日書店を物色していると、「解法を何百パターンか暗記すれば、数学が解けるようになる」という参考書が売り出されていた。
俺はもちろん、その魔法のような売り文句に飛びついた。
この行動自体、数学への苦手意識が原動力になっているとも気づかず・・・。
期待に胸を膨らませて参考書を読み進めていくと、確かに解ける問題が増えていくようで嬉しかった。
しかし、どんなにやっても、どうしてもしっくり来るものがない。
自分で解いているという実感が全然沸いてこないし、はじめて見るタイプの問題には全く歯が立たない。
そんな時は解法を暗記して、どれで解けるか当てはめて行くより、素直に問題の根本的な趣旨を考える方が、よほど効率が良いような気がしてきた。
しばらくは、暗記で数学を乗り切れると信じて努力してみたが、結局は地道な方法論に行き着くことになった。
その方法論とは、頭をつかって考え、自分の手で書いて、計算して問題を解いていくということの積み重ねだ。
不思議なことに、変に近道を意識しなくなってからは、一問解く毎に、地に足の着いた考えが出来るようになってきた。
自分の力で解けたという実感の積み重ねが、ほんの僅かずつだが、確実に俺の苦手意識を解かしている。
苦手意識を本気で信じていた俺は、あえて根本的な解決から逃げることで、ずいぶんと遠回りしてしまったようだ。
つづく・・・
photo credit: Matti Mattila via photopin cc
あとがき
誰の言葉であっても、人が言うことを真に受けてはいけません。
自分がどういう人間になるかを決めるのは、結局、自分でしかあり得ないからです。
いつもお読み頂きありがとうございます!
※この物語は、実体験をもとにしたフィクションです。
コメント