― 大学のキャンパスは新入生歓迎シーズンに沸いていた。省吾はサークルを物色しながら、毎夜行われる新歓パーティーに端から顔を出していた。 ―
新入生歓迎シーズン。
それは、とにかく新入生というだけで、日々開催される各サークルや部活の新歓パーティーに無制限に出入りできる、すばらしい期間だ。
受験までは狂ったように勉強していた連中が、今は常軌を逸した羽目の外し方をしている。
「やるときはやる、遊ぶときは遊ぶ」を地で行っている人間がかなりいるようだ。
俺も一度は本気で勉強以外のことに取り組もうと考えていた。
ただ、大声を出してはしゃぎ回るわけではなく、一人静かに自分のやりたいことがないか探し歩いていた。
今日の行き先は、ある軽音サークルの新歓コンパだ。
会場に入ると、奥に白いマーシャルのアンプを積み上げてあるのが見える。
さすがに、音量だけはでかい。
話す声も聞こえないくらいだ。
入り口でもらったサークルの資料を見ながら、先輩方の演奏を聴いていると
ふと、壁に寄りかかって手持ちぶさたにしている人に目が行った。
短い髪に、レースで編んだような長い丈のショールを肩にかけている、
今まで俺が出会ったことがないタイプの女性だった。
一瞬迷ったが、今日は俺も気が大きくなっていたのかもしれない。
どうしても気になって、声を掛けることにした。
「こんばんは! これ、飲まない?」
「あ、有り難う。」
俺はそこら辺にあるドリンクを二人分もって近づく、という古来より伝わる作戦に出た。
「すごい盛り上がりだね、省吾と言います。 はじめまして!」
「はい?」
「あ、俺の名前。 省吾、って言います。」
「ごめんごめん、うるさすぎて聞こえなかった。」
「あ、私チカって言います。」
自己紹介が済むと、俺は安心して少し笑顔を見せた。
「チカさん、このサークルに入る?」
「まだ、わかんないな・・・」
「私、他の大学の学生なんだ。このサークルは他大学も受け入れてるから、見に来たんだけど・・・。」
「そっか、俺もまだ分からないんだけど、この後別のコンパでも物色する?」
「今日はもう少ししたら帰らないといけないんだ。実家から通ってるからさ・・・」
その後、どうでも良いような会話を続け、チカさんが帰るというので入り口まで見送った。
おれは軽く手を振ると、彼女は軽く微笑んだように見えた。
つづく・・・
photo credit: billadrian96 via photopin cc
あとがき
何か思うことがあれば、自分に正直になって行動してみる方が、後になって納得できることが多いような気がします。
結果はさておき・・・ですが。
心に思ったことを押し殺すと、あとで、「どうしてやっておかなかったんだろう?という気持ちになっても対処できません。
もう、その場に戻ってやり直すことが出来ないからです。
まさに「後悔」です。
あの時こうしていたら・・・
と悔やまないためには、とにかく行動を起こすことです。
だめだったとしても、それは一つの答えが出たことには違いありません。
また次のチャンスがありますよ!
いつもお読み頂きありがとうございます!
※この物語は、実体験をもとにしたフィクションです。
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