― 省吾、中学3年生。そろそろ高校入試のことを考えていた。だが、成績が悪すぎる省吾は、もっと勉強時間を延ばす必要性を感じていた。 ―
「3年生の2学期までに、成績を良くしておいた方がいいんだろうな・・・」
高校入試には内申点というのが効いてくるため、中学校の成績も無視できない。
しかし、中学2年生時の成績は英語以外、壊滅状態だった。
成績が良いとは言えない地元の学校だが、10段階で2がついている科目もあったほどだ。これでは高校入試どころではない。
もっといろいろな科目の勉強時間を増やさなければいけないのは明らかだった。
しかし、好きな英語の勉強でも、まだ1時間以上続けて勉強するのは厳しい。
何かいい方法はないものか・・・
俺は気晴らしにケーキでも焼くことにした。
小学校の頃から趣味で菓子作りをしているが、最近は腕を上げてデコレーションケーキも作れるようになっていた。
スポンジ作りのコツは、小麦粉をしっかり混ぜこむことだ。
ダマにならないよう、小麦粉を少しずついれながら・・・と
「ん?」
「そうか! 勉強も同じなのか?」
「勉強時間も、小分けにしたほうが、ふっくら仕上がるのでは?」
俺は意味の分からないことを口走った。
最初から1時間やるとか、2時間やるとか決めないで、30分、何とか集中していられるなら、とりあえずそれだけやれば良いのでは?
自然にそう思えた。
誰の教えか知らないが、これまで一回の集中時間を増やすことばかりに気をとられていた。
勉強は、大変な我慢をして、長時間ぶっとおしで出来れば良いというものでもないはずだ。まあ、もちろん、時間が経つのも忘れて3時間も4時間も没頭していられたら理想なんだろうが・・・
30分だって、6回やれば合計3時間だ。
逆に30分でいいなら、ちょっと勉強してみてもいいかな、という気にもなった。
さらに言えば、回数を増やせるならもっと短い時間でもいいんだと気づいた。
少し目の前が開けた感じがした。
そうやって、15分とか、30分とかの時間をかき集めて、1日1時間半とか2時間とか勉強できる日も出てきた。中学2年まで1日30分も勉強すれば限界だった俺としては、新たな壁の越え方だった。
だが、ある日・・・
不思議なことがおきた。
その日も、短時間でもやらないよりはましだと思って、英語の勉強をしていた。
とりあえず15分だけやろうと思ってはじめたが、気づくといつの間にか2時間以上経っていたのだ。
もしかして、集中力のスイッチは意外なところにあるのかもしれないな・・・
勉強に没頭するという感覚が、微かだが、はじめて分かったような気がした瞬間だった。
つづく・・・
あとがき
やる気のスイッチはどこにあるのか?
脳科学でいうと、脳の「淡蒼球」(たんそうきゅう)という場所にあるそうです。
でも、我々が知りたいのは、スイッチの場所ではなくて、スイッチの入れ方です。スイッチの入れ方にはいろいろなテクニックがあります。
今回のストーリーにある方法は、あまりやる気のないときでも、役に立つ方法です。
やらなければいけないことがあるのに、どうもやる気が出ない。こんなときは、とりあえず、少しだけ着手してみるという方法を試してみてください。
省吾のように、15分でもいいですし、難易度の高いもの、抵抗感の大きいものなら、10分とか5分とか、もっと短くしてもいいと思います。
大事なのは、「そのくらいならやってみてもいいかな?」と思うところまでハードルを下げることです。
そうして、決めた時間だけ、仕事や勉強に向き合います。
人間というのは不思議なもので、中途半端な状態が嫌だと感じます。だから、途中まで着手してしまうと、続きが気になってしまうのかもしれません。
決めた時間が来ても、やっぱり気が乗らないなら一旦切り上げればいいだけです。5分でも、10分でも、その仕事なり勉強なりに向き合った時間は無駄ではありません。
いつもお読み頂きありがとうございます!
※この物語は、実体験をもとにしたフィクションです。
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