「事業理念なんて小さい会社にはまだ必要ないよね?」
そう思っていませんか?
先日、飲食店開業希望のYさんと打ち合わせをしたときのことです。
料理には自信があるものの、事業計画書を書くにあたり、いろいろと分からないコトがあるとのこと。
そこで私は、事業理念についてまず考えてみましょう、と切り出したのですが・・・。
そんなことやってる場合じゃない!?
ちなみに、あなたは「事業理念」という言葉を目にしたとき、どんなことが頭に浮かびましたか?
よくある
「私たちは○○を第一に考え、社会に貢献することを目指します。」
みたいな標語を想像したかもしれません。
これで儲かるの? という感じがしたと思います。
Yさんも同じでした。
Yさん:
「理念とか言われても、店を出して、お金を稼いで成功したいからやってるんですよ。大企業じゃないんだし、理念とかそういうキレイ事でお金が稼げるんですか?」
「そんなファンシーなことやってる場合じゃないんです。早く事業計画を完成させたいんですよ。収益予測とか、集客方針とかも決めないといけないし・・・。」
この反応は普通だと思います。私も以前は企業理念の必要性に全く気付いていませんでしたから、気持ちはよく分かります。
結局あとになって必要性に気付くのが「理念」
私:「これからお店を開くときに考えなければいけないことは、山ほどありますよ。」
宣伝、内装、メニュー、サービス、スタッフ教育・・・
その都度、全部一から考えていたら、決まるものもの決まりません。
しかも個別に考えていたら、それぞれに一貫性がでないのです。全体としてつながりのない経営になってしまう。無駄が多くなるし、どこか一カ所手直しすると全体に影響が及んだりして二度手間になる。
基礎のない建築物のように、理念のない経営は運営に必要以上の労力がかかります。
私:「そんなわけで、理念というのは、最初に無視しても、後になってやっぱり何かしら必要だったな、と結局戻ってくるものなんですよ。」
ですから、最初からある程度の原型は持っていた方が良いのです。
最初の理念は私利私欲レベルでOK
別に理念といっても、社会的なポリシーがないヤツはダメだ、とかそういう意味ではありません。
全然完璧じゃなくても問題ありません。
なんにも無いよりは、何かの指針があれば相当見通しが良くなります。
「ガチガチの社会貢献!」のような壮大なやつは5年、10年とやっていくうちに勝手に出来ていきます。最初は自分の私利私欲と社会の課題のぎりぎりの接点を見つけられればそれでOKです。
まずは気軽にやってみよう。ということになり・・・。
理念を考える
Yさんと考えた内容をそっくり公開することはできないので、ここでは似た事例をご紹介します。
詳しい理念作りの流れについては別の機会に回しますが、一番基本のところだけを言うなら、「自分のやりたいこと」と「社会の課題」との接点は何か?を考えます。
例えば、
厚労省の統計資料によると、年々「タンパク質の摂取不足」が問題になっている。運動能力の低下や貧血、メタボまで関連している。
社会の視点で見たとき、そういう食の課題がある。
「飲食店を経営して儲けたい」という野望は、どこかでこの社会問題と接するだろう。
ー中略ー
そんな経緯で考えついたのが
「ハンバーグで地域の明日を創造する」
という理念だとしておきます。
理念で迷いが消える
さて、こうして理念を作ると、さまざまな点に良い影響をもたらします。
今回のケースでは飲食店開業のための事業計画がかけない、ということでした。
飲食店経営では、原価率、人件費率の管理が非常に大事ですが、ただコストを下げれば良いというものではありません。
原価を下げたらおいしくない料理が出来上がり、人件費を下げれば仕込みに十分な手間をかけられない、等の理由でやっぱりおいしくない料理が出来上がります。さらに、働く人のモチベーションが下がって、店の雰囲気そのものが悪くなります。
でも理念があれば
・何をやって何をしないか?
・どこに、何のためにお金をかけるか、かけないか?
これがはっきりわかります。
これが理念の力だ!(具体例)
ここから具体的な内容をあげていきます。
メニューのコンセプトが定まる
理念のところで「食を通じて」と書かずに「ハンバーグで」と書いたところで既にメニューの主役が明確になっている。
何でも提供する洋食屋さんスタイルにする必要はないとわかるので、ハンバーグを主体としたメニュー作りをすればいいと分かる。
経営管理もハンバーグの売上げ個数を軸にできるので効率的。
よく分からないまま「洋食の店」的なものを始めてしまうと、あれもこれもメニューに載せて、お客様の期待に応えようと盲目的に利益率が下がってじり貧になるケースも。
ハンバーグ以外のバリエーションが要らないと分かる
だから仕入れも効率化できるし、仕込みも効率化できる。廃棄も最小限に抑えることが出来る。→利益率が上がる。
的を絞った仕入れをするので、肉質などの大事なところにお金をかけることが出来る→お客様に「おいしい」を提供できる。
価格勝負しなくて良いと分かる
最安である必要はない。もちろん、高額路線でもない。価格だけで勝負しない。
仕入れの方針が決まる
明日の体の元となるタンパク質を提供することが理念だから、良質なタンパク源が必要。ハンバーグ用のお肉は良いものを仕入れる必要がある。良い生産者を探してこだわりの材料を使っていることを売りにするべきだとわかる。
間違っても、出来合のレトルトハンバーグを温めて提供するスタイルではダメだとわかる。
内装の方向性を絞れる
内装は別に高級じゃなくていいとわかる。それより楽しく、おいしい食事が出来ればいい。
地域に根ざした店なので、普段使いができる工夫が大事だとわかる。
集客の重点を絞れる
お店の経営は、地域に根ざしていなければいけないとわかる。地域で活動する人に向けて、お住まいの方々への定期的な挨拶回りで元気を届けるとか、日々通勤して働いておられるサラリーマンの皆さんにお声がけしてビラを渡すなどの、密着型集客でファン層を固めるべきだ、というアイデアも出てくる。
地域に根ざした情報を定期的にメールやレターなどで配信して定着を狙ったり、地域の祭りに連動したキャンペーンをしたり、ということも自然と思いつく。
1から10までスタッフ教育しなくてすむ
料理は、単純に体の栄養素として取るものではなく、明日の「心」の活力になるべき。
だから、配膳するハンバーグは熱々のものを、最高のタイミングで楽しんで頂かなければいけない。
例えば、配膳の際には、絶対ぬるくなったような料理を運んではいけない、ということが末端のバイトスタッフでも理解できる。
「ぬるいハンバーグを運ぶくらいなら、もう一回作り直します!」このことが正義だと誰にも相談せずにわかり、自信をもって判断できる。
これを継続すれば、全員が一丸となって同じ目標に向かえるような文化が形成される。
迷ったとき、事業に関わる人々の悩みに対して、一番深いところで答えを出してくれるのが理念です。 事業理念があらゆるものの核となり、迷いを払って事業を後押ししてくれるのです。
理念は誰のためのもの?
理念はお客様にかっこつけた姿勢をみせるスローガンではありません。
会社は誰のものか?という議論がありますが、
結局ビジネスが「人と人の営み」である以上、ビジネスを始めれば、それは何かしら社会的な意味を持ってしまいます。
ですから、経営する人や会社の株主以外にも、そこで働く人、来てくれるお客様にとって、はっきりと分かるガイドラインが必要です。
「このお店はどんなことができる場所で、どっちを向いているのか?」
その点を、関係する人達が理解していれば、皆が同じ期待のもとに、そこで料理を作り、料理を食べ、くつろぎ、目的にあった仲間を連れてくる場所になります。
提供する側も何をしたらお客様が喜ぶのか分かるし、お客側としても、何をしに行くのか分かって行く。
「なんか期待と違った」といったような、がっかり感やクレームも減ります。
ありふれた「飲食店」という業態で生き残って行くには、「あそこに行けばあれがある、あんな体験ができる」と誰もがはっきり理解できる「場所」を作らないといけません。
おわりに
Yさん:「なるほどー。企業理念ってタダのお飾りだと思ってました。こんなに実用的な面があったんですね。」
結局、事業計画をどう書くか悩んでいたのは、決められないことが多すぎたからだと気付かれたとのこと。
すっきりした顔で帰って行かれました。
私にも爽快感が伝染したのか、嬉しい気分にさせて頂きました。
有り難うございます!