― 省吾は中学3年生の夏休み、泊りがけで遊びに来た親戚と一緒に山登りに行くことになった。しかし、省吾は山で道に迷ってしまう。途方にくれる省吾を助けてくれたものとは? ―
今日は夏休みで親戚が遊びに来ている。
これから目指す山は、標高はそれほど高くないので遠足に毛の生えたレベルだが、森は深く、迷えば危険なエリアだ。
つい先日も、近くのキャンプ場に来た客が遭難して、川に転落したというニュースがあったばかり。
入山口までは車で行き、そこからは各自リュックを背負って歩き始めた。
俺は一番後ろをついていく形だったが、夏の山は美しい。
山の斜面には色々の花が咲き乱れ、木々は緑の葉を揺らしながら光の粒をはじいている。
俺は珍しい景色を思う存分堪能しながら、のんびり歩いていた。
しばらくすると、俺は妙な静けさを覚えた。
我に返ってあたりを見回すが、視界には人っ子一人いない。
「おーい、誰かいるー?」
誰からも返事がない。
どうやら俺は、皆とはぐれたようだ。
気づけば道らしい道も見当たらず、俺はとりあえず上にのぼることを目指した。
(山登りに来たわけだから、上を目指すのは正解だろう・・・)
しばらく上っていくと、若干、平らなエリアに出た。
この山の中腹には大きな池がある。その周りには一面背の高い植物が生えており、先を見通すことが出来ない。
行くならかき分けて進むしかない。
戻ろうにも、もう今来た道も分からなくなっていた。
「遭難」の2文字が頭に浮かぶ。
途方にくれていると、どこからともなく、ブーンという音を立てながら、緑色に光る虫が飛んできた。
そいつは頭の上を、2メートルくらいの円を描きながら、ぐるぐると回っている。俺はかまわず、歩き続けることにした。
しかし、どういうわけか、俺が動けばそいつも一歩先を進むように移動し始めた。
面白がってしばらく進んでいくと、突然そいつが、また止まって旋回を始めた。
俺は少し戻って、試しに進む方向を変えてみた。すると、そいつはまた一歩先を飛び始めた。
俺は何かを感じて、そいつに、ついていくように進んだ。
そうして、道のないところをかき分けて歩いた。
30分くらい進んだ頃だろうか、急に視界が開けた。
「省吾、お前どこ行ってたんだよー」
「遭難したかと思って心配したじゃないか」
皆俺を心配してくれていたようだが、ようやく合流できた。
見上げると、先導してくれた虫は、どこへともなく飛び立っていった。
「ありがとう」
心の中で言った。
この世界には、まだ科学で理解できないことがあるんだろうな・・・。
俺はそれからというもの、虫であろうと自分に敵意のある生き物以外は、むやみに攻撃しないことに決めた。
つづく・・・
あとがき
世の中、いつ誰が、そして何が助けてくれるか分からないものです。
人間は一人では生きていけません。
直接会ったことがなくても、話したことがなくても、そして存在すら知らなくても、何かの意思や力が、私たちの暮らしを支えてくれているのだと思います。
いつもお読み頂きありがとうございます!
※この物語は、実体験をもとにしたフィクションです。
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