うまくいかない時のモチベーション管理 (第20話 夕立)

―高校1年生の夏。英検1級の2次試験に落ちた省吾は、自分には何も残っていないような気分だった。学校の授業にも面白みを感じられず、省吾は、適当な理由をつけて学校を早退した。 ―

 

俺はこのところ、というか今までずっと英語の勉強に賭けてきた。

何を賭けたかはわからない。

だが、現状としては、英語以外の成績が思うようにふるわず、肝心の英検にも落ちたというのが紛れもない事実だ。

特に化学の成績は最悪だった。

 

「こんなことでもなければ、天気は最高だし、幸せな一日なんだが・・・・」

そんなことを考えていると、いてもたってもいられなくなった。

 

「先生、どうも具合が悪いので早退していいですか?」

俺は、適当すぎるいいわけで早退して、午後は散歩でもすることにした。

まあ、何かの「具合が悪い」のは嘘じゃないだろう。

 

さすがに学校の近くで遊び回っていたら都合が悪いので、俺は最寄りの大きな駅までバスで移動した。

 

外は蒸し暑いが、何ともいえない開放感だ。

俺は駅のロータリーを抜けて、どこへともなく、海の方へ向かった。

 

「これは降りそうだな・・・。」

しばらく歩くと、湿った空気に海のにおいが混じってきた。

空模様も若干怪しくなってきたが、今の俺にそんなことはどうでもよかった。

 

海へ向かう途中、

横断歩道を渡ろうとしていると、向こうから見覚えのある制服姿の人が渡ってきた。

 

「あの人は、確か・・・。」

他校の生徒と遊びまわっているときに知り合った、近隣の女子校の3年生だ。

確か、先週くらいにカラオケにいったとき、一緒の部屋にいたと思う。

 

「ねえ、省吾君、だっけ?」

とりあえず、すれ違い様に、軽く会釈だけすると、向こうから話しかけてきてくれた。

 

「あ、はい。アサミさん・・・でしたよね?」

「今日学校は・・・?」

思いがけない会話に、俺は適当な返事が見つからなかった。

 

「いいのいいの。買い物に行くんだけど、一緒に行かない?」

特に行くあてもなかったので付き合うことにした。

 

「海の方、通っていっていいですか?」

「いいよー。」

 

二人は海沿いの道を、とりとめもない話をしながら、商店街を目指してのんびり歩いていた。

 

「あ、降ってきた?」

そう言ったかと思うと、ぽつぽつと降り始めた雨は、大粒の水しぶきに変わっていく。

 

アサミさんと俺は、示し合わせたように、かばんを傘がわりにして走りだした。

若干遠回りをしたせいか、商店街まではまだ距離があるが、この時期の雨らしく、雨足はどんどん強くなっていく。

「とりあえずここ入ろっ」

そう言うアサミさんの後を追いかけて、最寄りのコーヒー店の軒下に駆け込んだ。

ドアを開けると、ドアベルが鈍い音をたてて鳴り、ニコチン濃度の高そうなエアコンの風が吹き付けてきた。

 

「適当に注文していい?」

「あ、いいですよ。」

 

俺は何の気なしに答えると、アサミさんは、メニューに載っているデザートを端から注文し始めた。

「このくらい食べられるでしょ? 男の子だもんね。」

女子校に通っている人は特別な文化でも持っているのかと思ったが、面白くて、ただ注文するのを見ていた。

 

狭いテーブル席に、次から次へと、ホットケーキやら、プリンアラモードやら、チョコレートパフェなど、喫茶店の伝統デザートが運ばれてきた。

あとはただ、二人で黙々と食べ続けた。

フードファイトが一段落して、外をみるともう雨は止んでいる。

 

店から出ると、遠い雲の切れ間には青空が見える。

振り返れば、強い夕日の前に、シルエットだけの世界が広がっていた。

 

「腹ごしらえも済んだし、買い物行こっか?」

「そうですね」

 

人との出会いは大事だ。あまり引きこもって何かひとつの視点にとらわれていると、人間は何かが空っぽになってしまうのかもしれない。

俺はそんなことを考えながら、軽い足取りでまた商店街を目指した。

 

つづく・・・

photo credit: lecercle via photopin cc

目次

あとがき

何かを目指して、がんばり続ける人でも、いろいろなことが重なって精神的につらい時期はあります。

でも何とかモチベーションをリセットして、また前に進んで行くのが我々の使命です。

 

何かがうまくいかない、何かに疲れてしまったとき・・・

そんなとき、散歩をしたり、いろいろなものを見たり、友達に話したり、するのは効果的です。

 

日頃から、そんな仲間作りを心がけたいものですね。

 

いつもお読み頂きありがとうございます!
※この物語は、実体験をもとにしたフィクションです。

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