― 省吾は高校入試が終わると、また英語の勉強ばかりしていた。英検1級合格を目指す省吾が目の当たりにした世界とは? ―
とうとうこの日が来た。
英検1級の1次試験の結果が届き、今目の前にある。
俺は軽く手をこすり合わせ、そっとはがきを手に取ると、恐る恐る結果を確認した。
「合格」
そう書いてあった。合格の文字に「不」はついていない。
英検2級のときは飛び上がって喜んだが、今回はなぜか静かな気分だ。
「よしっ」
俺は小さく拳を握った。
次は2次試験だ。
俺は、色々と本やビデオ教材を買ってきて、2次試験まで毎日のようにそればかりやっていた。
そして2次試験の当日・・・
会場に到着すると、俺は同じ面接グループの人たちと席に座っていた。
まもなく試験が始まるという段階で、何か参考書を見ている人などいなかった。
二人の面接員が到着し、面接が始まる。
俺はグループの6番目だ。
しかし・・・
自分の順が回ってくる前に、既に雲行きが怪しくなった。
他の人のスピーチを聞いていると、今まで自分が考えていたものと、何か、ひどく方向性が違うことに気付いた。
これは海外の就職面接かと思うほど、皆自分のスピーチについて、「自分の姿勢、思い入れ」を軸に、持論を展開していた。
それも、スピーチ直前に受け取った「お題」に沿って、である。
2次試験といえば、数分スピーチして、質疑応答に答えるだけだろうと考えていたが、そうではなかった。
もはやこれはスピーチではなく、プレゼン大会だ。
5番めの人は英語がペラペラで、ほとんどネイティブだった。しかし、その人でさえも、論理の一貫性や、根拠の薄さをつかれ、かなり質疑応答で苦戦をしている。
これは英語を話すという試験ではなく、もはや「伝えるとは何か」の試験なのか?
全く敵を知らずに敵陣に乗り込んででしまった。
面接がすべて終了すると、バリトンボイスの、立派な赤茶色の口ひげを蓄えた面接員が最後にこう言った。
「あなた方の中で、受かった人もいれば、そうで無い人もいる。」
既に結果は出たということか・・・
帰りの電車で、この言葉だけが頭を巡っていた。合否通知を待つまでもなく、もう結果は見えている。
これまで、努力さえすれば何でも出来ると思っていた。
自分で考えられることは全部やった。だが世界が違った。
どんなに毎日勉強しても、合格につながらない努力なら結果は出ない。
「やり方を根本から変える必要がありそうだな。」
俺は面接会場を出るときに、何気なく受け取った英語スクールのチラシをぼんやりと眺めていた。
つづく・・・
photo credit: smithco via photopin cc
あとがき
「願えばかなう」
「努力すれば道は開ける」
嘘ではないと思います。
しかし、大事なのは、その願い方、努力の仕方です。
必死で努力しても報われないケースはいくらでもあります。そこに共通するのは、悲しいほど努力の方向性が間違っているというパターンです。
そうならないために、
「今自分がやっていることは、目標達成に関係があるのか?」
日々、この問いをしてみてください。
関係無いならその作業や勉強は止めて、関係があると思えることに意識を集中していきます。
目標が大きいほど、ゴールまでの道のりで、いろいろなことを考えて方向を見失いがちです。
こまめに軌道修正し、当初の目標を、視界の中心にとらえ続けて下さい。
いつもお読み頂きありがとうございます!
※この物語は、実体験をもとにしたフィクションです。
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